脚本家のジェームス三木さんが2025年6月14日に91歳で逝去されたとの報に接しました。数々のヒット作を世に送り出し、特にNHK大河ドラマにおいては不朽の名作を残されました。心よりご冥福をお祈りいたします。
ジェームス三木さんの功績を偲び、本記事では彼が手掛けた3本の大河ドラマ、『独眼竜政宗』、『八代将軍吉宗』、そして『葵 徳川三代』の魅力を解説していきます。
歴代最高視聴率を誇る『独眼竜政宗』はもちろんのこと、他の2作品が持つ独自の面白さや、ジェームス三木脚本ならではの特色に光を当ててご紹介します。
大河ドラマの歴史を塗り替えた金字塔『独眼竜政宗』(1987年)
項目 | データ |
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放送年 | 1987年(昭和62年) |
主演 | 渡辺謙(伊達政宗役) |
原作 | 山岡荘八 |
脚本 | ジェームス三木 |
平均視聴率 | 39.7%(歴代1位) |
言わずと知れた大河ドラマの金字塔、『独眼竜政宗』。その魅力の根幹には、ジェームス三木さんの卓越した脚本術があります。
ジェームス三木さんは、弟を殺害し、父を見殺しにする(拉致された父を救えず結果的に死なせてしまう)など、従来の主人公像とは一線を画す伊達政宗の「悪漢気質」に惹かれ、その人間が抱えるジレンマこそがドラマの核になると考えました。
脚本執筆にあたり、ジェームス三木さんは「見やすさ」と「わかりやすさ」を常に意識していたと語っています。難解になりがちな歴史ドラマを、現代の視聴者が感情移入できる人間ドラマへと昇華させたのです。また、当時の言葉遣いを基にしながらも、現代人にも理解しやすいセリフ回しは高く評価されています。
放送当時、視聴率の低迷から「大河ドラマ冬の時代」とも言われていましたが、本作の圧倒的な成功がその流れを断ち切り、「大河は死なず!」と証明したのでした。
「暴れん坊」じゃない、人間味あふれるリーダー『八代将軍吉宗』(1995年)
項目 | データ |
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放送年 | 1995年(平成7年) |
主演 | 西田敏行(徳川吉宗役) |
脚本 | ジェームス三木 |
『独眼竜政宗』の成功を受け、ヒットメーカーとして再びジェームス三木さんに白羽の矢が立ったのがこの作品です。
「暴れん坊」じゃない、もう一つの吉宗像
「吉宗」といえば白馬に乗ったヒーロー像が一般的ですが、ジェームス三木さんと西田敏行さんが作り上げた吉宗は、豪快ながらも非常に人間臭いリーダーです。紀州の部屋住みから将軍へと上り詰め、「享保の改革」を断行する裏側で、我が子の教育に悩み、父(大滝秀治)と、生母・お紋(山田邦子)、そして側室・須磨(賀来千香子)との間で板挟みになる姿は、現代のミドル管理職や父親の共感を呼びました。
狂言回し・近松門左衛門という発明
本作の大きな特徴は、江守徹さん演じる劇作家・近松門左衛門がストーリーテラーを務める点です。
時にユーモラスに、時にシニカルに登場人物や時代背景を解説してくれるため、歴史に詳しくない視聴者でも物語の世界にスムーズに入り込むことができます。この手法は高く評価されました。
涙なくしては見られない「ホームドラマ大河」
特に、言語に障害のある長男・家重を演じた中村梅雀さんの迫真の演技は大きな話題を呼びました。
跡継ぎとして期待できない我が子を、それでも愛し、守ろうとする父・吉宗の葛藤と愛情は、多くの視聴者の涙を誘いました。
「政治ドラマでありながら、最高の親子ドラマ」という評価が、本作の魅力を何よりも雄弁に物語っています。
徳川幕府の礎を築いた三代のリアル『葵 徳川三代』(2000年)
項目 | データ |
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放送年 | 2000年(平成12年) |
主演 | 津川雅彦(徳川家康役)、西田敏行(徳川秀忠役)、尾上辰之助(現・尾上松緑、徳川家光役) |
作 | ジェームス三木 |
ジェームス三木さんが脚本を手掛けた3作目の大河ドラマが、徳川幕府の礎を築いた家康・秀忠・家光の三代を描いた『葵 徳川三代』です。
主人公がリレーする画期的な構成
本作は、初代・家康(津川雅彦)、二代・秀忠(西田敏行)、三代・家光(尾上辰之助)へと主人公がバトンタッチしていくリレー形式で描かれます。
これにより、偉大すぎる父を持つ二代目の苦悩、祖父の威光と父への反発の中で成長する三代目といった、三代にわたる権力継承のリアルな葛藤と家族の物語が浮き彫りになります。
「ご意見番」水戸光圀による歴史解説
語り手は、なんと後世の人物である徳川光圀(中村梅雀)。彼が自身の編纂する歴史書『大日本史』を紐解きながら、先祖たちの物語を冷静に、時に熱く解説していきます。
この未来からの視点が、視聴者に出来事の歴史的意義を伝え、複雑な人間関係を整理するのに大きく貢献しました。
豪華俳優陣による「演技の関ヶ原」
初回からクライマックスである「関ヶ原の戦い」を真正面から描き、度肝を抜きました。
何よりも津川雅彦さん演じる家康の、老獪で人間臭い魅力は「まさに決定版」と絶賛されました。さらに西田敏行さん、岩下志麻さん、小川真由美さんらオールスターキャストが繰り広げる演技合戦は、まさに、「演技の関ヶ原」と呼ぶにふさわしい迫力でした。
ジェームス三木脚本の大河ドラマを観よう
今回ご紹介した3作品は、いずれもジェームス三木さんの「人間を描く」という強い意志が貫かれた名作です。
英雄の華々しい活躍だけでなく、その裏にある葛藤や弱さ、人間らしさを巧みに描き出す手腕は、時代を超えて私たちの心を惹きつけます。
この機会に、ジェームス三木さんが遺した不朽の名作ドラマに触れてみてはいかがでしょうか。NHKの動画配信サービス「NHKオンデマンド」では、現在3作品とも配信中です。